
VILLAGE通信 vol.27 大阪府
堺打刃物、料理人の手に届く片刃の切れ味
近畿編の4回目は大阪府です。大阪府には大阪欄間や大阪泉州桐箪笥、大阪唐木指物など、国の伝統的工芸品がいくつもありますが、今回は府の南部、堺市で作られる「堺打刃物(さかいうちはもの)」を訪ねます。表紙の写真は、堺市の堺刃物伝統産業会館(堺HAMONOミュージアム)を以前に撮影したもの。白壁の建物の軒先に、刃物のまちであることを伝えるのぼりが並んでいます。
たばこ包丁と「堺極」の印
堺市によると、堺打刃物の始まりは16世紀、ポルトガルから伝わったたばこの葉を刻む「たばこ包丁」です。大阪府の解説でも、安土桃山時代に堺でたばこ包丁の製造が始まり、江戸時代の初めには出刃包丁や料理包丁も作られるようになったと紹介されています。
堺のたばこ包丁はその切れ味が評判を呼び、江戸幕府から「堺極(さかいきわめ)」の印を入れて売ることを認められました。国土交通省の資料では、品質を幕府が認めた専売品として全国に販売されたとされています。中世から海外との交易で栄えた港町・堺の職人たちの技が、こうして日本じゅうの台所へと広がっていきました。1982年(昭和57年)3月5日、通商産業大臣(現在の経済産業大臣)から国の伝統的工芸品に指定され、「堺打刃物」「堺刃物」は地域団体商標にも登録されています。
鍛冶、刃付け、柄付けの分業
堺打刃物の大きな特徴は、工程ごとに専門の職人が受け持つ分業です。まず鍛冶の職人が、赤く熱した軟鉄と鋼を叩いて延ばしながら接着し、強さと粘りのある刃の形を打ち出します。次に刃付けの職人が、目の粗さの違う砥石を使い分け、10以上の工程を重ねて鋭い刃をつけます。最後に柄付けの職人が、包丁のゆがみを整え、重心の釣り合いを見ながら柄をすげます。堺市によると、技術を身につけるには10〜15年以上かかるといいます。
和食の料理人が使う刺身包丁や出刃包丁、薄刃包丁の多くは、刃の片側だけを研いだ「片刃」です。片刃はたばこ包丁から受け継がれた形で、食材の断面をなめらかに切り分けられることから、プロの料理人に長く愛用されてきました。
要点
・16世紀、ポルトガルから伝わったたばこを刻む「たばこ包丁」が始まり
・江戸幕府から「堺極」の印を入れて売ることを認められた
・鍛冶・刃付け・柄付けを専門の職人が分担し、技術の習得には10〜15年以上
・1982年3月5日に国の伝統的工芸品に指定
フランクフルトとパリへ
和食が世界に広まるにつれ、堺の包丁も海外の料理人の注目を集めています。堺市は2022年度から、市内の刃物事業者とともにドイツ・フランクフルトで開かれる世界最大級の国際消費財見本市「アンビエンテ」に出展しています。市の資料によると、見本市での会期中の商談成約金額は2022年度の約1,100万円から、2023年度には約4,800万円、2024年度には8,100万円へと伸び、ヨーロッパを中心に販路が広がっています。2026年2月には、パリのシェフや料理学校の関係者を対象に、伝統工芸士による包丁研ぎや手入れの実演も計画されました。
海外から堺を訪れる人も増えています。堺市の資料によると、刃物などの伝統産業品を紹介・販売する「堺伝匠館(さかいでんしょうかん)」では、海外への情報発信によって訪日客が増えたこともあり、年間売上額が過去最高の約2億3,000万円になりました。会館では包丁の選び方や手入れの相談もでき、刃物のまち・堺の技を身近に感じることができます。
前回は京都府の西陣織でした。VILLAGE通信 vol.26 京都府はこちら。大阪府の見どころは47都道府県ガイドの大阪府編からどうぞ。次回は兵庫県を訪ねます。
参考:堺市(堺打刃物、産業振興局の組織運営方針、報道提供資料)、大阪府(大阪の伝統工芸品)、国土交通省、経済産業省「伝統的工芸品」指定品目一覧、伝統的工芸品産業振興協会
——Value Village編集部
写真:KENPEI/CC BY-SA 3.0(Wikimedia Commons)




