
【VILLAGE通信 vol.29】鹿の革に、漆を置く
山梨県
山梨県の国指定は甲州水晶貴石細工、甲州印伝、甲州手彫印章の3品目です。
3つとも、かなり性格がはっきりしています。
革の上に、漆
甲州印伝は、鹿の革に漆で模様を置く工芸です。型紙を当てて漆をのせ、乾かす。
この組み合わせは、考えてみると不思議です。漆は、ふつう木や紙に塗るものです。柔らかく伸び縮みする革の上で、割れずに残る。
鹿革は牛革より軽く、柔らかく、使うほど手に馴染みます。そこに漆の模様がのると、使うほど艶が出る。
「印伝」の名は、インド伝来(印度伝来)に由来するとされます。南蛮貿易で入ってきた装飾革がもとになったという説です。
この連載で見てきた工芸は、たいてい地元の素材から始まっていました。印伝は、外から来た形が土地に居ついた例です。
水晶を、削る
甲州水晶貴石細工は、その名のとおり水晶の加工です。
もともと御岳昇仙峡周辺で良質の水晶が採れたことに始まります。原石はすでに採り尽くされ、いまは国内外から石を仕入れて加工しています。
原料がなくなっても、技術だけが残った産地です。
これは兵庫の豊岡(vol.24)と似ています。あちらは柳からかばんへ、素材を変えて生き延びた。山梨は素材の産地を変えて生き延びた。
手で、彫る印鑑
甲州手彫印章は、印鑑を手で彫る技術です。
水晶加工の技術があったこと、そして印材(水晶・黄楊など)を扱う下地があったことが背景にあります。
いまは機械彫りが主流です。それでも手彫りが残っているのは、「同じものが二つとできない」ことが、印鑑では価値になるからでしょう。
複製できないことが、そのまま用途になっている。この連載でいちばん珍しい残り方かもしれません。
三つに共通するもの
革と漆。水晶と刃物。印材と刃物。
三つとも、硬いものと柔らかいものを組み合わせる仕事です。
そして三つとも、小さい。山梨は大きなものをつくらない県です。山に囲まれて運びにくかったことと、無関係ではないかもしれません。
次号は福井へ。眼鏡の話をします。
参考:山梨県、甲府市、伝統的工芸品産業振興協会
——Value Village編集部




